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ストレスの多い現代社会、顎関節症の症状を訴える方が増えています。

顎関節症とは?

顎関節症の診察風景写真
顎関節部を触診中の岩本院長

皆さんの中で、「口を開けるとあごが痛い」、「あごの関節がカクカク鳴る」、「口を大きく開けられない」といった症状を経験された方は多いと思います。学校歯科健診において、顎関節の診査項目が導入されるようになったことも相まって、近年、このような症状を訴えて歯科を受診する患者さんが増加している傾向にあります。

“顎関節症”という病名が使われだした当初は、その疾患概念は曖昧なものでしたが、その後の研究の進歩によって病態が詳細に解明されるようになり、日本顎関節学会は1996年に顎関節症を「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害または顎運動異常を主要症候とする慢性疾患の総括的診断名であり、その病態には咀嚼筋障害、関節包・靭帯障害、関節円板障害、変形性関節症などが含まれる。」と定義しています。
これをわかりやすく言い換えますと、“顎関節症”と診断するために必要な条件は

  1. あごの関節や食べ物を咀嚼する時に使用する筋肉に痛みがある
  2. あごの関節のあたりで雑音がする
  3. 口を大きく開けられない、スムーズに動かせない

などの症状を、少なくともひとつ以上有することになるのです。例えば、各種の画像診査において顎関節の中の軟骨や関節部の骨の位置や形態に異常が認められたとしても、あるいは頭痛や肩・首のこりがあったとしても、上記の①~③の症状のいずれも有しないものは顎関節症とは診断されないのです。

顎関節症のタイプ分類

顎関節症は、多くの原因が絡み合う多因子疾患であり、その病態も多様であることから、いくつかのタイプに分類されます。以下にそのタイプを示します。

[ 顎関節症のタイプ分類表 ]
顎関節症㈵型 ものを食べる時に使う筋肉に症状がでるもの
顎関節症㈼型 あごの関節の靱帯などが損傷され、捻挫のような症状がでるもの
顎関節症㈽型 あごの関節の中にある軟骨の場所がおかしくなって症状がでるもの
顎関節症㈿型 あごの関節の骨が変形してしまったもの
顎関節症㈸型 上記のⅠ~Ⅳ型に該当しないもの

このような5つのタイプに分類することにより、病態の存在する部位が明確となり、より詳細で適確な診断が可能になっています。実際の臨床では、患者さんの症状からタイプ分類を行い、各タイプにおける病態・病期あるいは重篤度を判定し、最後に予後とそれに基づいた治療目標を設定していきます。

顎関節症の治療


[ 顎関節周囲の解剖学的要素 ] 顎関節は耳の穴の前にあり、関節の軸(下顎頭)は
関節包と外側靱帯で覆われています。

顎関節症の治療法の選択にあたっては、適正な診査・診断が重要であることは言うまでもありません。日本顎関節学会では、正しい診断のもとに適切な治療を行うことができることを目的として、2001年に「顎関節症診療に関するガイドライン」を提示しています。これにより、顎関節症に対して一定の診療指針が設定され、顎関節症診療の第一線にいる医療者が臨床現場で症例ごとに指針に沿った診査、診断、治療を実施できるようになり、より科学的根拠に基づいた医療を確立できるようになりました

顎関節症の原因はひとつだけではなく多くの因子が関連して発症するものですが、外科的な治療をするとか、かみ合わせを変えるというような方法ではなく、可逆的あるいは保存的な治療方法で症状を改善できることがわかっています。それだけではなく、たとえ治療をしなくても再発を繰り返しながら症状は消失する場合が多いこともわかってきています。ですから、治療の原則は可逆的で非侵襲的であり、なおかつ患者さんの肉体的・精神的・経済的負担がより少ない方法を選択することを第一に考えています。したがって、自覚症状が顎関節の雑音だけの場合などは、あえて治療をおこなう必要はありません。


[ 顎関節と周囲筋との位置関係 ] 顎関節は、関節の状態、筋肉の状態によって、
症状がわかれます。

当院では患者さんの症状に合わせて、セルフケア(開口訓練・マッサージ)、スプリント(マウスピース使用)、カウンセリングなどの他、必要に応じて鎮痛剤の投薬などを組み合わせて治療を行うようにしております。そして、目指す治療のゴールは、100%症状を消失させることではなく、患者さんの日常生活に支障のない程度まで症状を緩和させることと考えています。もちろん、再発防止のための長期的な管理も必要で、患者さんにこの病気について理解していただくとともに、積極的に治療・予防に参加していただくことも重要なのです。